山口情報芸術センター [YCAM] の「森のDNA図鑑 仁保の森 2016」というウェブサイトを制作、2016年11月に公開させていただきました。今回はこのサイトの制作過程の話をしてみようと思います。これまで、こういった制作の裏側を記事にしたことはないので、使っているツールなどにも触れてみます。記事は2回にわけ、前篇はこのサイトの背景から当日の撮影まで、後篇は技術系の話を中心にまとめる予定です。
Contents
背景
まず、このサイトは何なのか?という話です。ご存知ない方のために一応、依頼元であるYCAMのご紹介からします。
YCAMについて

山口情報芸術センター [YCAM] というメディア・アートの複合施設が山口県山口市にあります。YCAMができたのは2003年。実はこのあたりは私の地元で、生まれ育った馴染みの場所です。元々は市民球場や公園、県立高校などがあり、私も幼い頃は缶蹴りなどして遊んだのどかな田舎町でした。そんな所に、国内有数の最先端でエッジの効いた施設が建造されて驚いたのも、もう10年以上前のことになります。以降、アート作品の展示だけでなく、内部研究開発チームと外部アーティストとの共同作品制作や、映画や演劇等の公演、全国から人が集まる大きなイベント開催など、実に様々な活動を展開されています。
そんなYCAMが始めた一番新しい取り組みのひとつにYCAMバイオ・リサーチがあります。
YCAMバイオ・リサーチについて
YCAMバイオ・リサーチは、“バイオテクノロジーの応用の可能性を多様な切り口で模索するプロジェクト”です。近年の急激な価格低下によって、個人でも活用できるレベルになったこの分野で、セルフビルドでゼロから館内にバイオラボを設置したり、一般参加者への啓蒙活動など、活発に活動を続けています。
たまたまですが、私の父(元理科教師)も、バイオ・リサーチのイベントに参加するようになりました。これまでのアート/テクノロジー文脈ではなく、サイエンス的なテーマだったことで親しみやすかった様です。設立から10年を超えたYCAMが、このように地域の色んな分野の人々を巻き込みながら活動の幅を拡大していっているのも、新らたなフェーズに入った感があり、興味深いです。
依頼内容と発想
今回、YCAMバイオ・リサーチの方からというワークショップの参加者が、森の中で採取してきた植物のDNAの解析結果をまとめて見られる「ウェブ図鑑」を作りたい、という依頼がありました。このワークショップ「森のDNA」の主たる目的は、「DNAバーコーディング1」という技術を使った種の同定作業の実践とアーカイヴ(「森のDNA図鑑」の制作)でした。
今回の依頼内容を聞いてパッとイメージしたのは、360°パノラマ映像の中にマーカーが浮いていて、クリックすると詳細が見られるというアイデアでした。採取場所の状況・情報をより多く残すことができて、参加できなかった人にも現地の臨場感を伝えることができるので、興味を持ってもらうことができそうで、今回の企画にピッタリなのではないかと思いました。
余談ですが、KARAPPOは以前にも「ウェブ図鑑」を作ったことがありました。「マジカル動物図鑑」というメディア・アートイベント参加者の描いた塗り絵をウェブ上にアーカイヴしたサイトで、1000以上のアイテムが収録されています。このときは、塗り絵自体が魅力的だったこともあり、一覧性と次々に見ていく楽しさを追求しました。しかし、今回は同じウェブ図鑑ですが、収録数よりも試み自体の面白さが見た人に伝わるように、別の見せ方にする方がしっくりくる気がしたのです。
準備から当日の撮影まで
ミーティングや連絡ツール
KARAPPOは千葉にあるので、ミーティングは基本Google Hangoutでした。ハングアウトは、相手もGoogle Calendarを使っていれば、予定を追加して編集画面から「ゲストを追加」しておいて、カレンダーから直にハングアウトのチャットルームに入れます。いちいちルームを作って、直前に別のメッセージツールでURLを共有して…という作業が必要なくて直感的で便利です2。Google DocsのSpreadsheetも、諸々のデータの整理や受け渡しなどでかなり重宝しました。Facebookメッセージも少人数の簡単なやり取りに使いました。メール以外にチャット形式のツールがある方が便利ですよね。

ロケハンと撮影機材
バイオリサーチの方に現地でロケハンしてもらい、できるだけ広く見渡せて、画面内にバランスよくサンプルがばらけそうな場所を、検証してもらいました。ロケハンで事前に撮影した動画や写真を使ってデモを作り、ハングアウトで話し合いながら進めていきました。
カメラはKodakのPIXPRO SP360 4Kを2つ繋げて使用しました(写真)。RICOHのTHETA Sも試して、画像のつなぎ目(2カメラ間の視差)はTHETA Sの方がキレイでよかったのですが、森の映像だとつなぎ目はほとんど気にならなかったので、より高解像度のPIXPROを選びました。人工物などの直線が映り込むような場面では別の選択をしていたかもしれません。

なお、撮影や機材調達などは全てYCAM側で行っていただきました。スタッフの方が機材の扱いに長けているため、やりとりが非常にスムーズでした。
また、今回感心したのが、バイオ・リサーチの記録のとり方でした。過去の活動の記録も、写真や動画の形でアーカイブされ公開されています。フィールドワークの様子は、ヘッドマウント型のカメラを使って記録に残されていて、あとから追体験できたのも、リモートにいながら現場の状況や情報共有にとても役立ちました。KARAPPOでも今後の参考にさせてもらおうと思いました。
当日の撮影
当日は、撮影するときのカメラ位置が分かりやすいように蛍光ピンクの紙を被せて、参加者にはそれが見える範囲で採取するようにしてもらいました(写真:1)。参加者は辺りを探索し、採取する植物が決まったら、配られたiPodTouchで近景を撮影(写真:2)、サンプルを採取、そして最後に採取場所に丸いサンプル・マーカーを置いてもらいます(写真:3)。全てのグループの採取が終わった後で、サンプル・マーカーをひとつづつグループ名を読み上げながら回収していく様子を本番のカメラ位置から動画撮影してもらいました。あとで、この動画と本番用動画を見比べながら、3D空間内にマーカーを配置していきます。

撮影:山中慎太郎(Qsyum!) 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
ここまでは当日までのお話でした。次回は、この撮影でとれた動画や写真などの素材を元に、実際のウェブができあがるまでの制作過程を、技術的な話を中心にしたいと思います。
続き → 森のDNA図鑑のできるまで 2/2
